大阪高等裁判所 昭和42年(ネ)422号 判決 1969年4月22日
近江八幡信用金庫
理由
一、被控訴金庫の主位的請求
本件手形である甲第一号証の表面中、控訴会社のゴム印、角印、丸印の印影が控訴会社の印判によるものであることは控訴会社が認めるところであるが、《証拠》によると、本件手形は、融通手形の交付を歎願した高橋昌士の依頼に応じた藤井桂司が、控訴会社の氏名を冒用して振り出した偽造手形であることが認められ、この認定に反する証拠はない。
そうすると、被控訴金庫の主位的請求は失当である。
二、被控訴金庫の予備的請求
(一) 《証拠》を総合すると次のことが認められる。
藤井桂司は、控訴会社の販売を担当し、帳簿の記帳もしていたが、会社のゴム印、角印を保管していたロッカーの鍵を所持していた。控訴会社では、藤井桂司に、このゴム印、角印を使用して手形を書かせ、控訴会社の代表取締役である武田潔は、社長印をその都度自分でこれに押捺していたが、藤井桂司に社長印を預けることもあった。藤井桂司は、このゴム印、角印を冒用し、預つたみぎ社長印を冒捺して本件手形を偽造した。
本件手形の支払期日前に、控訴会社が振り出した手形で被控訴金庫で割り引いた分は、すべて控訴会社によつて支払われたが、その手形の詳細は被控訴金庫主張どおりである。
本件手形も、これらの手形と同じように控訴会社が振り出したもので控訴会社によつて支払われるものと考えた被控訴金庫は、昭和四一年五月一七日、本件手形の所持人北川留吉の割引依頼に応じて、割引料金一万一、〇二〇円を差し引き金二三万八、九八〇円を支払つた。
以上の事実によると、藤井桂司は控訴会社の被用者で控訴会社の手形発行の職務を担当していたものであるが、前認定のとおりその本来の職務を逸脱し、本件手形を偽造したものとしても、その行為は本来の職務と密接の関連を有し外形上本来の職務行為とみられるから、特段の事情のないかぎり、控訴会社は使用者としての責任を免れない。そうして、被控訴金庫は、本件手形が真実のものと考え北川留吉の依頼で割り引き、金二三万八、九八〇円の出捐をしたわけで、これが、控訴会社の藤井桂司が本件手形を偽造したことによつて被つた損害といわなければならない。
(二) 控訴会社は、藤井桂司の選任監督を怠らなかつた旨主張しているが、その事実を認めることのできる証拠はどこにもない。したがつて、この抗弁は採用に由ない。
(三) 控訴会社は、被控訴金庫に過失があつたと主張しているが、その事実を認めることのできる証拠はどこにもないばかりか、前記認定の事実からするとそのような過失は被控訴金庫になかつたといえる。したがつて、この抗弁も採用しない。
(四) 以上の次第で、控訴会社は民法七一五条により被控訴金庫に対し、金二三万八、九八〇円とこれに対する昭和四一年五月一八日から支払いずみまで年五分の割合による遅延損害金を支払わなければならないから、被控訴金庫の予備的請求は理由がある。
三、むすび
被控訴金庫の主位的請求は失当であるから、これを認容した原判決を取り消して主位的請求は棄却するが、被控訴金庫の当審でした予備的請求は正当であるから認容。